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咄嗟に抱き上げた身体は・・・思った以上に軽くて。
俺はまるで、遠藤に全てを預けられているような・・・そんな錯覚に苛まれそうになっていた。
Shine
「・・・とりあえず、これでよし・・・と」
あの後、意識を失ってしまった遠藤を自室に運んで。
部屋の鍵を開けるために、篠宮のヤツを起こそうかと思った瞬間、抱きあげた遠藤のポケットから
それと思しき鍵が、カチャリと音を立てて落ちる。
本人の許可なく悪いとは思ったが、事情が事情なので、そのまま使わせてもらうことにした。
ブレザーを脱がし、ネクタイを外して・・・そのまま、慎重にベッドへと寝かせる。
そっと額に手を当ててみるが、熱があるわけではない。
相変わらず顔色はよくないが、眠っているだけのようだと判断すると、ベッドの隣に腰を下ろして、
これからどうしたものかと、考えを巡らせた。
遠藤の部屋が、持っていた鍵で開いたということは、こいつが篠宮の言っていた「遠藤和希」に
間違いないだろう。
そう判断して、改めて隣で眠る遠藤の様子を伺う。
そう言えば、何度か寮の食堂で見かけたことがあるような気がする。
生徒数の少ないこの学校では、顔を知らない人間のほうが珍しいのだから、当然といえば当然なのだが。
でも、見たような気がする・・・という程度でしか、俺の記憶の中では存在していない。
それだけ大人しいか、物静かな生徒なのだろうか。
「・・・なんか釈然としねぇな・・・」
何もかもが、はっきりしない。
というか、うまく結びつかないような気がするのだ。
まず、目の前の「遠藤和希」という存在。
篠宮は目立たない・・・と言っていたし、実際、俺も今まで全く印象になかった。
でも、こうして間近でみる遠藤は、目立たないという言葉では片付けられない雰囲気というか・・・
繊細で、綺麗な顔立ちをしているように、見受けられて。
「な、何考えてんだ・・・俺は・・・」
何気なく浮かんだ考えに自分で驚き、誰がいるわけでもないのに、自然と言葉が漏れる。
脳裏を掠めた雑念を振り払おうと、軽く頭を振ってみても・・・視線は、遠藤から離せなくて。
艶やかな亜麻色の髪。
頬にかかった、睫の影。
綺麗に通った鼻筋に、小さな寝息が繰り返される、柔らかな唇。
無防備に、俺の目の前に曝け出された「遠藤和希」という存在に、何故か引き寄せられてしまう。
・・・今はそんなこと考えてる時じゃねぇだろーが。
再び、囚われかけた思考を、意思の力で振り切って。
俺が今、どう感じたかはともかく、これまでその存在を気にもしなかったという点から、遠藤が
目立たない存在であることを前提にしてみたとしても。
普段全く目立たない遠藤が、こんな状態になるまで門限破りを繰り返して、出歩く理由とは
いったい何だろうか。
ただ、遊び歩いているだけとは、思えない。
篠宮が問いただしても、いつも明確な答えが返ってこないとは、言っていたが。
何か、人に言えない事情があるのだろうか。
「・・・あぁ、くそっ・・・」
なぜか気になって仕方がない。
なぜ気になるのか?
その理由すら分からない・・その事実が、さらに俺の感情を逆撫でする。
ちょっと素行の悪い一年生がいる。
それだけのことじゃないか。
こいつ以外にも、あまり素行のよくない一年生など、何人もいる。
なのに、何故こいつだけこんなに気になるのか。
ふと脳裏によみがえったのは・・・意識を失う寸前の、遠藤の姿。
俺に向かって、弱々しく伸ばされた手は・・・まるで、救いを求めているようにも見えて。
無意識のうちに、その手をとって握り返した瞬間、微かだけど、遠藤が笑ったように思えたんだ。
「・・・お前は、何者なんだ・・・?遠藤和希」
掴み所のない、正体がつかめない目の前の後輩の髪を梳きながら、そっと呟く。
返る声などない俺の問いかけの答えるかのように・・・ただ、繰り返される規則正しい寝息に、
俺は何故か、笑みが零れるのを感じていた。
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なんかぜんぜん二人が絡んでません。
これで王和だと言い切っていいのでしょうか・・・。(悩)
次こそは二人に絡んでいただきます。(断言?)次で終わりの予定・・・(は未定)。
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