俺が初めて『遠藤和希』という存在を認識したのは、篠宮の言葉からだった。
















          Shine



















事の始まりは、点呼時間の廊下でしかめっ面をした篠宮に、たまたま遭遇した事だった。



「よぉ、どーしたんだよ、篠宮」

真面目な性格ゆえか、あまり過剰な感情表現を見せるほうではない篠宮だが、今日はいつにもまして
不機嫌というか、困惑した表情を浮かべているように見えた。

「丹羽か・・・」

俺の声に視線だけを向けながらも、篠宮の意識は前方の部屋へと向けられていて。



「・・・あ?この部屋がどうかしたのか?」
「あぁ、また不在のようでな」
「また?・・・って、ここ一年の部屋だろ?」



季節は五月。
新入生として、この学園に入学してから、まだ一月あまり。
全寮制のこの学園が、毎晩十時に一年生から点呼を取るのは、学園概要にも説明されている。

しかも、篠宮は今『また』と言ったのだ。

また・・・というコトは、以前にもあるというコトだろう。



「これで三度目だ。一月あまりの間に三度は、ちょっとな・・・」



確かに、篠宮の言うとおりだ。

この短い間に門限破りを三度も繰り返すなんて、よっぽど事情があるか、バカのどちらかだろう。
選ばれた者しか入れないベルリバティスクール、と言えば聞こえはいいが、選抜理由は様々だ。
多少素行の悪いものがいても、不思議ではない。



「そいつ、そんなに問題児なのか?」
「いや、門限破り以外はいたって普通の・・・寧ろ、落ち着いた感じの生徒なんだが」
「・・・名前は?」
「遠藤和希・・・たしか手芸部所属のはずだが・・・」




名前を聞いても、ピンと来ない。
言われてみれば、そんなヤツがいたような・・・そんな程度にしか、思い出せない。
入学して一ヶ月しか経っていないとは言え、大した人数ではないこの学園では、素行が悪いヤツ
など、すぐに目に付いてくる。
顔どころか、名前すらピンと来ない時点で、本当に目立たないヤツなんだろうか。



・・・・・でも、そんなヤツがこの短い間に三度の門限破り・・・か。



俺の心の中にその時に湧き上がった感情に名前をつけるとしたら、それは『好奇心』以外の何物でも
ないだろう。
この俺に顔も名前もわからないくらい目立たないくせに、門限破りを繰り返すヤツはどんなヤツなのか。

目立たない印象と門限破りの事実。
その妙な違和感と、繰り返される門限破りの理由に、単純に興味が湧いて。



「篠宮・・・俺に考えがある」
「丹羽、お前また・・・」
「まぁ、いいから。俺に任せとけって」




眉を顰める篠宮の言葉を遮って。
俺はこの時、想像もしていなかった。














『遠藤和希』の存在が、これからの自分にとって・・・どれほどの存在になっていくかというコトを。





















どこか不満そうな篠宮を、何とか言いくるめて。
俺が遠藤の部屋の周りで張り込みを始めたのは、篠宮の点呼が終わった直後。



「・・・たく、何処ほっつき歩いてるんだ?遠藤のヤツ・・・」



時間は既に日付変更線を越えて。
中々戻らない遠藤に、思わずグチが零れる。


一体どんなヤツなのか。


単純な好奇心で始めた張り込みにも、いい加減嫌気が差してきた、その時。
廊下の端を曲がってきた人影に、俺は咄嗟に身を隠した。





・・・・・遠藤か?



薄暗い廊下では、人の顔は判別しづらい上に、そもそも俺は遠藤の顔をよく知らない。
遠藤の部屋の前で立ち止まったら確保してやろうと、じっとその動向を見守る。



「・・・なっ?」


思わず、小さく声が漏れた。
何故なら、目の前の人影が、いきなり廊下に蹲ってしまったのだ。




「おい、遠藤っ?!」



いてもたってもいられず、俺は蹲る人影に駆け寄る。




「遠藤?どうしたっ?!」


今にも廊下に崩れ落ちそうなその身体を、しっかりと支え抱き起こすと、薄暗い中でも
顔色が悪い様子がありありと窺える。


・・・こいつ、こんな状態で今まで何してたんだよっ・・・。


予想外の成り行きに焦りを覚えながらも、目の前の遠藤の憔悴しきった様子に何故か目を奪われる。





その閉じられた瞳をがゆっくりと開かれて。
虚ろな眼差しで、俺のほうへとのろのろと伸ばされた手を、無意識に握り返した瞬間、





「遠藤?・・・おい、遠藤?!」






まるで抜け殻のように、力なく意識を手放した遠藤の手を、握り締めたまま、俺は
遠藤の名を呼び続けた。






















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前回の話を、王様視点で。話が進んでなくてスミマセン。
ってか、王様難しいですよ。本当に。
もっと王様はカッコいいはず・・・うぅ、ゴメンなさい〜(><。





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