もし暗闇の中で道に迷った時、目の前に一筋の光が差し込んだら・・・





―――――アナタナラ、ドウシマスカ?
















          
Shine















道を、見失ってたんだ。


やらなきゃいけないこと。自分の使命、役割・・・存在意義。
そんな『重圧』に押しつぶされてしまいそうで。


やるべきことは分かってる。
進むべき道も・・・知っている。



寄り道も、脇道へ逸れることも赦されない・・・そんな毎日の中で。




自分がどうしたいのか。
そもそも、自分って何なのかとか。





―――――自分で、自分のことが一番分からない。









俺は、自分自身を見失っていたんだ。














そんな俺が、学園の内情を探るために、敢えて学生という身分を選んだのは・・・
本当は、羨ましかったからなのかもしれない。



自分の夢に向かって、真っ直ぐに進んでいく・・・その姿が。
希望に満ちた眼差しの先にある・・・その未来が。



喩え、それが偽りだとしても。



俺も一緒に、その時間を共有したい。
幻でもいい。
どこかで・・・求めていたのかもしれない。



―――――『俺』が『俺』でいられる・・・そんな場所を。


















「・・・・・現実は、そんなに甘くない・・・な」



深いため息とともに吐き出された無意識の言葉に、自嘲の笑みが零れる。



自分で選んだ道なのに・・・。



根性のない自分を叱咤するべきなのか。
それとも現状を見通せなかった過去の自分の甘さを悔やむべきなのか。
どちらにしろ自分の責任であることに間違いはないのだけれど。





『遠藤和希』として学園に潜入して、早一ヶ月。

学生生活と理事長の二重生活に忙殺されているうちに、もうそんなに経ったのかというのが
正直な実感で。
怪しまれないように、日中は学生としての生活を優先する分、必然的に削られてくるのは
夜の自由時間しかなくなってくる。


「今日も間に合わなかったな・・・」


腕時計に視線を向けて、再びため息をつく。
時計の針はすでに、零時を回っていて。


この一ヶ月の間に、三度目。
毎晩十時に行われる、寮長の篠宮さんによる点呼に、俺が間に合わなかった回数だ。
出来る限り、時間までには戻ってきて、部屋で出来る分は部屋で済ますようにしてはいるけれど、
どうしても理事長室でないと出来ないものや、急な仕事が入ったりすれば、その時間に寮に戻る
ことは、到底不可能となって。

今までも、翌朝になると色々詮索されたり、注意をされていたけど・・・三度目はさすがにまずい
かもしれない。

できるだけ目立たないように。

そう思っているのに、現実は中々上手くはいかないものだと、またため息が零れる。



明日の朝の篠宮さんのお小言の事を想像すると、軽い眩暈を覚えながら、俺は寮の裏口の扉を
静かに開けた。
どこか凛とした静寂に包まれた廊下を、できるだけ足音を立てないようにゆっくりと進む。


幸い、誰とも顔をあわせることなく、もう少しで部屋の前に辿りつこうかという、その時――。
急に視界が傾いだ。





あれ・・・?




急に目の前が、真っ暗になっていく。
足元がふわふわと覚束なくて、俺は咄嗟に屈みこんだ。





さっきの眩暈・・・篠宮さんのお小言のせいじゃなかったのか。




ぐるぐると視界が回る中、ふとそんな思いが頭をよぎる。
後もう少しで部屋なのだから、何とかしてそこまで行こうと、必死に気力を振り絞ってみても
頭と身体が上手くリンクしていないのか、一向に言うことを聞いてくれなくて。






・・・・・このまま、何もかも放棄してしまおうか。
そんな甘い誘惑が、朦朧とした意識の片隅に小さく響く。






「・・・・・い、遠藤っ?!」



誰かの声が・・・聞こえた気がした。
こんな時間に廊下を歩いているなんて、誰だろう。




「遠藤?どうしたっ?!」




ひどく慌てた声。
ゆっくりと抱き起こされる感覚に、俺は最後の気力を振り絞って、閉じかけた瞼をこじ開けた。






最後に視界に映ったのは・・・真っ直ぐな瞳。
真っ直ぐで、迷いなど微塵も感じられない・・・光を宿した双眸。




その輝きに触れたくて。











そっと手を伸ばしたところで、俺の意識は完全に暗転した。












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王和・出会い編です。(笑)
それにして、渡会の書く和希は随分とヘタレだなぁ・・・と、痛感。
たまには鈴菱モードな和希とか書いてみたい。





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