どこまでも、どこまでも。

目の前の続くのは・・・ただ、深遠の闇。






歩いても、走っても。
もがいても、叫んでも。


終わることのない闇が、ただそこにあるだけで。









俺はどこに行けばいいの?
どうしたらこの闇から抜け出せるの?








まるで幼子のように蹲って。

途方に暮れる俺に、突如降り注いだ・・・一筋の光。













そっと手を伸ばしたら。







―――――暖かな感触が、俺の手を包んで。


















          Shine


























ぼんやりとした視界に、見慣れた天井。


どこまでが夢で、どこからが現実なのか。
まだ靄のかかったままの意識を奮い立たせて、今自分が置かれている状況を、何とか理解しようとする。





・・・・・いつの間に、戻ったんだろう。





ゆっくりと蘇ってくる記憶の中に、部屋の鍵を開けた記憶も、ベッドに潜り込んだ記憶もない。
あるのは、部屋の前までたどり着いた記憶まで、だ。




もう少しよく思い出してみようと身体を起こした瞬間、視界の端に何かが映った。

何か、ではなくて・・・誰か。







「・・・・・丹羽哲也・・・生徒会長?」







見間違えようもない彼は、ベッドのすぐ傍の床で、壁に背を預けて眠っていた。




「・・・どうして彼が・・・ここに・・・?」



そこまで口にした時に、微かに蘇る記憶に、俺は口を噤んだ。







霞む意識に、ふらつく身体。

部屋の前に倒れるように座り込んだ時に、遠くで聞こえた・・・誰かの声。
最後に感じた・・・暖かな光と、包むような温もり。







・・・・・あれは、彼のものだったのか?






ゆっくりとベッドから降りて、すぐ近くで眠る彼の前に、そっと腰を下ろす。




どうして彼が、あんな時間にあんなところにいたのだろう・・・。
偶然と言うには、時間も場所も出来すぎている気がして。


でも、それ以上に。




目の前に『彼』がいる。




その事実が、何よりも俺の心をかき乱していく・・・。







「できれば・・・貴方には、近づきたくなかったのに」







小さく吐き出された言葉とは裏腹に、俺は彼の頬へと手を伸ばす。
まるで、その温もりを求め・・・縋るように。



―――触レテハイケナイ。



頭の中では、わかっているのに。
それでも、そろそろと伸ばされた手は、ゆっくりと彼の温もりだけを求めて。



俺の手が、彼の温もりに触れようとした瞬間、






「・・・・・・ん、えん・・・どう・・・・?」




硬く閉ざされていた彼の瞳が、ゆっくりと開かれる。
弾かれるように手を引っ込めて、俺は彼から視線を外した。





「遠藤、お前・・・気がついたのか?」

「え・・・えぇ、ご迷惑かけてしまったみたいで、すみませんでした」





まるで身を乗り出すようにして、俺の顔を覗き込みながら語りかける彼に、俺は社交辞令的な言葉を返す。
表面上は、出来るだけ平静を装いながらも、心の中では先ほどの自分を見咎められているのではないかと、
気が気ではなくて。




「んなこたぁ、いいって。それよりもお前、無理するんじゃねぇぞ。きちんと休め。いいな?」




どうして俺が、あんな時間に帰ってきたのか・・・とか。
どこで何をしてたんだ・・・とか。




聞きたいことや言いたいことは、きっと山ほどあったと思うのに。





何も聞かず、温かな言葉と共に、少し乱暴に俺の頭を撫でる彼の大きな手の感触が。
そんな彼の言葉に驚いて、顔を上げた俺の視界に飛び込んできた、彼の弾ける様な笑顔が。




嬉しくて・・・そして、眩しくて。






「・・・・・はい、ありがとう・・・・ございます・・・・」










こんなに素直に、感謝の言葉を口にしたのは・・・どれだけぶりだろう。

いつの間にか、感情の伴わない言葉ばかりを口にすることが当たり前になっていた俺に、まだ
こんな気持ちが残っていたなんて。


きっと、これが彼の力なのだ。


彼の・・・『丹羽哲也』という人間が持つ、その溢れんばかりの存在の力。
その真っ直ぐで温かな、まるで降り注ぐ太陽の光のような彼の存在は、彼の意思に関わらず、
周囲を巻き込み、いつの間にか閉ざされていた俺の心でさえも、融かして。




そして、同時に感じる・・・俺自身の浅はかさ。




『彼』に触れたいと願った・・・その心。

その温もりに触れてしまえば、抑えてきた己の感情を箍を、自分自身で外してしまうことに
なりかねないのに。


彼を光に例えるなら、俺は・・・闇。


どれだけ光を欲しても、所詮、手に入れられることなどない。
ましてや、俺が手を伸ばして、彼の光に影を落とすことなど・・・もってのほかで。







―――『あの日』彼を見初めた・・・その時に。


俺は、決して彼とは関わるまいと・・・そう心に決めたはずなのに。













「おい?どうしたんだよ、遠藤?・・・まだ気分悪いのか?だったら、ベッドで休んだほうが・・・」

「いえ・・・いえ、違います」




そのまま俯いてしまった俺を気遣うような彼の言葉に、俺はゆっくりと首を振る。




「本当に・・・ありがとうございました・・・」

「お前、まだんなコト言ってんのか?もういいから、早く寝ろ」




小さく続けられた俺の言葉に、彼は呆れたような声を上げる。






・・・・・あの時、貴方が、目覚めてくれなかったら。
その真っ直ぐな眼差しで・・・俺を見据えてくれなかったら。





俺は、貴方に・・・触れていた。





己の中の欲望に負けて。
ただ・・・貴方の温もりだけを、求めて。






でも、それは赦されない過ちだから。










―――――俺は、貴方のことが・・・・・好き、だから。









だから、貴方とは関わらない。

そう、決めたのだから。























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ものすごく曖昧というか、微妙なんですけど、このお話はここで終わりということで。ヾ(;´▽`A``

和希が文中で言っていた『あの日』については、また追々書いていきたいと思います。
長い間お待たせした割には、絡みのあまりないお話でゴメンなさい。




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