珍しく仕事が早く終わったこんな日。
今までなら真っ直ぐに寮に帰って、貴方の部屋に駆け込むんだけど。



「卒業・・・しちゃったんだよな」



改めて感じる月日の流れに、言いようのない侘しさを感じながら一人、とぼとぼと寮へと戻る足取りが、
何故か重い。





「・・・啓太のところにでも行こうかな」





このまま一人でいると、どこまでも沈んでしまいそうな意識を奮い立たせて、自分の部屋へは戻らず、
そのまま啓太の部屋へと向かった。


啓太も中嶋さんが卒業してから、どこか寂しそうだったもんな。


抱えてる想いは同じ。
大好きな人が卒業してしまって、なんとなく取り残されてしまったような・・・ぽっかりと胸に穴が
空いてしまったような。
そんな想いを共有し、理解しあえる相手は啓太しかない。


そう思って、啓太の部屋の扉をノックしたが、反応はなかった。


「・・・啓太のヤツ、どこに行ってるんだよ・・・」


お門違いの愚痴をこぼしながら、先ほどよりも重くなった足を引きずるように、仕方なく自分の部屋へと戻る。





無造作に鍵を取り出し、扉を開けると・・・見慣れない大きな靴が、俺の視界に入った。


・・・この靴は・・・。




「よぉ、今日は早かったんだな」




その声に、俺は思わず駆け出して・・・そのまま勢いよく抱きついていた。

「お、おい・・・和希・・・」

抱きつかれた声の主は、俺の勢いに後ろに傾きかけた体を、そのたくましい片腕で支えながら、
空いたほうの手で俺の頭を優しくなでてくれる。




「・・・・会いたかった・・・王様」




思わず零れた本音に、王様がにやりと笑みを浮かべたことすら気づかず、俺はただ、
その胸に顔を埋める。




「なぁ、和希」
「・・・なんですか、王様」
「俺はもうこの学園の生徒会長じゃねぇよな」
「何言ってるんですか。生徒会長どころか、生徒でもないでしょう」




俺の顔を覗き込むようにしながら、ニヤニヤと笑う王様の顔が、なんか怪しい。




「だったらさ、その王様・・・ってのは、もうなしだよな?」
「・・・・は?」
「俺はもう、王様じゃねぇよな・・・か・ず・き?」





・・・・・そ、そういうことか。

王様の真意をようやく読み取った俺は、咄嗟に視線を外した。




「い、今更無理ですよ」
「今更じゃねぇだろ?今だからじゃねぇか」
「絶対無理です」
「俺はお前のこと和希って、呼んでるのに?お前だけいつまでも王様なのかよ?」
「無理なものは無理です」
「なんでだよ?」




俯いて外した視線を、再び合わせるように、王様の真っ直ぐな瞳が覗き込んでくる。





「・・・・は、恥ずかしいじゃ・・・ないですか・・・」





蚊の鳴くような声で、小さく呟いたら・・・一瞬の間の後、びっくりするほど強く抱きしめられていた。


「・・・お、王様っ?!」

突然の出来事についていけず、思わず俺は声を上げる。
王様はそんな俺の身体を抱きしまたまま、俺の肩口に顔を埋めていて。




「・・・・くくくっ・・・おま・・・可愛すぎっ・・・・」




小さく耳に届いた王様の声に・・・俺は耳まで一気に紅潮するのを感じる。




「・・・・なっ!離して下さいっ!!」
「やなこった」
「っ?!・・・離せ・・・離せってば、この・・・!!」


いくらもがいても、如何せん力で敵うはずなどない。


「・・・名前で呼んでくれたら、離してやってもいいぜ?」
「・・・・・っ?!」


耳元で小さく囁かれた提案に、俺は思わず王様を睨みつけたけど・・・耳まで紅く染まった顔では、
迫力も半減だろう。




「呼んでくれないなら、このまま頂いちまおうかな〜・・・」

言葉と同時に、耳朶を擽る感覚に・・・俺は思わず声を漏らす。




「・・・あっ・・・んっ・・・やめ・・・てつ、や・・・」




無意識のうちに零れた言葉に、王様の動きがぴたりと止まる。



「やっと、呼んでくれたな」

そう言って、俺に見せてくれた笑顔は・・・俺の大好きな太陽のような笑顔で。






―――――本当はずっと・・・そう呼びたかったんですよ。






喉元まででかかったそんな本音は、なんだか悔しかったから・・・そのまま飲み込んでおいた。
















ホワイトデー関係なくなってるし。(^^;
途中で話がそれて、思っていたものと違うものになってしまいました。
まぁ、即興30分ほどのお話なんで、変でも見逃してやってください。

※3/15:その後の二人の補足SS追加。くだらない話でもOK!な方のみドウゾ。
補足SSはこちら





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