ただ傍にいるだけで・・・シアワセ。



そんな想いを抱くことは・・・もうニ度とないと思っていた。










―――――小さな啓太と、別れたあの日から。
















    きみがいるだけで(中嶋×和希)



















「・・・やっぱり中嶋さんだ。まだ残ってたんですか?」




サーバー棟からの帰り道、もう誰もいないはずの校舎に、ポツンと点る灯り。
そこが生徒会室なのに気づいて顔を出してみたら・・・案の定、部屋にいたのは、たった一人の愛しい人。






「今日中に片付けなければいけない書類が残っていたからな・・・そんなことよりも」

「はい?」

「・・・・・・遠藤こそ、今帰りか?」






パソコンから視線を外して、戸口から覗く俺へと視線を向ける中嶋さんの声のトーンが、若干下がる。
暗に『お前こそ遅いじゃないか』という含みを持たせた言い回しに、俺は軽い気持ちで覗いたことを、
少しだけ後悔した。






「えぇ、部室で編み物してたら・・・いつの間にか時間を忘れてて」

「・・・・・ふ〜ん?」





訝しげな視線を投げつけて、中嶋さんが小さく声を漏らす。
こんな時のための言い訳用に、編みかけのセーターは常にカバンの中に忍ばせてあるけれど。





中嶋さんの射抜くような視線を前にすると、何もかも見透かされそうで。





「・・・・・まぁ、いい。帰るぞ」

「・・・・・え、あ・・・はい」

「何だ?何か納得がいかないのか?」

「いえ・・・そうじゃなくて。まだ作業の途中だったんじゃないですか?」





それ以上の追求がなかったことに、内心ホッと胸を撫で下ろしつつも、徐に立ち上がりながら、
ノートパソコンの画面を閉じた中嶋さんの行動に、俺は少々面食らった。





「別に部屋で出来ないことでもない」

「はぁ、そうですか」

「それに今日中の書類と言っても、もう誰も残っていないだろう」

「・・・・・確かに」





時計の針は、もう8時をとうに回っている。

こんな時間まで学園内に残っている人間は、限られているだろう。






「ほら、行くぞ」






いつの間にか、手早く片づけを終えた中嶋さんに促されて、俺は生徒会室を後にした。




















「でも、本当に良かったんですか?」



寮までの帰り道を二人で並んで歩きながら、俺はやっぱり気になって、中嶋さんに聞いてみた。



「何がだ?」

「さっきの書類ですよ、こんな時間まで残ってやってたってことは、大変な書類なんでしょう?」




俺の言葉を耳にした中嶋さんの瞳に、剣呑とした光が宿る。






・・・・・俺、聞いちゃいけないこと、聞いちゃった・・・のかな。








もしかしたら、それはとっても重要な書類で。

一般生徒である『遠藤和希』には見せられないほど重要な書類だから、俺が来た途端にやめたとか?



ベルリバティスクールの理事長が俺であることを知らない中嶋さんが、一般の生徒だと思っている
俺の目から書類を隠すために、俺に合わせたとしたら・・・なんだか申し訳なくて。





そんなコトを思って口にした疑問に、中嶋さんはオレの予想をはるかに超えた答えを、言葉に乗せた。








「・・・・・俺がお前と一緒に帰ることに、理由がいるのか?」


「・・・・・・・・・・・・・・え?」


「それとも、お前は俺と共に帰る事に何か不満があるのか?」







憮然とした表情のまま、言葉を続ける中嶋さんの言葉に・・・俺は、ただ耳を疑うばかりで。





なんてことはない。

中嶋さんはただ、俺と一緒に帰ろうとしてくれただけで。

ただそれだけで。




でも、ただそれだけのことが・・・何だか、すっごく嬉しくて。






「・・・・・何だ、急に」

「こうした方があったかいじゃないですか」




すぐ隣を歩く中嶋さんの腕に、これでもかというくらい、ぎゅっとしがみついて。




「・・・・・勝手にしろ」

「はい、勝手にします」











ただ傍にいるだけで・・・シアワセ。



そんな想いを抱くことは・・・もうニ度とないと思っていた。






―――――でも今、俺は・・・中嶋さんとこうしていられるだけで、シアワセだから。






恥ずかしくて、決して口に出来ない想いだけど。





願わくば、少しでも伝わるように。

俺はしがみついた中嶋さんの腕に、そっと頬を寄せた。













内容的にはシリーズに組み込んでもいけそうだけど、こちらで。

うちの和希は、幼い上に鈍いことが露呈したイタいお話ですが
年上なのに無邪気(しかも中嶋限定)な和希に、中嶋氏はメロメロなんだよっ!
と、無理やり納得することにしました。(ナニソレ)




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