『サヨナラ』 ―――――そのヒトコトで全てを片付けられたのなら、どんなに楽になれるのだろう。 05.サヨナラ 深入りしすぎた。 そう感じたときに、後戻りが出来なかったのは・・・彼ではなく、俺のほう。 実年齢より大人びた雰囲気を纏う彼の人は、唇の端だけを持ち上げて・・・笑みを模る。 『・・・・・俺が欲しくて仕方がない・・・そういう顔をしているな』 瞳の奥に宿るのは、冷たい炎。 核心をつかれた俺は、二の句が継げず・・・ただ俯くばかりで。 そんなことない。 たったヒトコトの反論すら赦さない、その絶対的な自信の根拠は何なのか。 言えないのか。言わせてもらえないのか。 そんな俺の内面の葛藤など、全て見透かしているかのような、冷ややかな視線。 たったヒトコト。 別れの言葉を告げれば、何もなかったことになる。 それでも。 その言葉を紡げないのは・・・俺自身が、もう彼に囚われてしまっているから。 『遠藤・・・こっちに来い』 抑揚のない声。 普段、生徒会室で見せるのと、なんら変わりない表情のまま・・・囁く声に。 抗う術を失くした俺は・・・まるで引き寄せられるように、彼の人の前へと歩み寄る。 『・・・・・いい子だ』 ご褒美をくれてやる・・・耳元で甘く響く、その言葉に。 怒りや屈辱感よりも、喜びと高揚感が俺の全てを支配していく。 重ねられた唇から、理性もプライドも全て・・・絡め取られてしまったかのように。 ただ、俺は・・・中嶋さんの背に、腕を廻してしがみつくことしか、出来ない。 このままでは・・・ダメだ。 このまま進めば、きっと・・・否、間違いなく、互いにダメになってしまう。 互いを求める気持ちだけでは、どうにもならないことが、世の中には山のようにある。 その事実を、俺は他の何よりも理解していたはず。 自分のために。 そして、何よりも・・・未来ある彼のためにも。 ・・・・・このままでは、ダメ・・・なのに・・・。 触れ合う肌で感じる、その鼓動と温もりが。 くちづけ一つで、俺の全てを狂わせてしまう・・・彼の存在そのものが。 苦しくて。でも、それ以上に愛しくて。 ―――――もう・・・手放すことなど、できない。 脳裏を掠める己の感情にすら、抗うことも出来ずに。 「・・・なか・・・じま、さん・・・・」 ただ、彼の名を呼び・・・その先を乞う。 貴方をヲモット・・・感ジテイタインデス。 他ノ何モ考エラレナイクライ・・・タダ、貴方ダケヲ。 そんな俺の言葉にならない想いを汲み取った彼は、満足げな笑みを湛えて。 『・・・・・いいだろう、堕としてやるよ、どこまでも、な・・・・・』 言葉と同時に落とされたくちづけは、先ほどよりも、深く・・・より深く、俺の奥まで抉り取って。 『サヨナラ』 そう告げたのはきっと・・・もう戻れない、昨日までの自分。 まだ想いが通じ合ってから、日が浅いころの二人。 この後和希は何も言えないまま、ただ、中嶋さんへと堕ちていくのです。(笑) ブラウザを閉じてお戻りください。 |