貴方にだけは、『嘘』なんてつきたくない。




―――――それでも俺は・・・・・。


















   02.嘘


















「俺が貴方の事を騙していたとしたら・・・どうします?」




いつものように身体を重ね合った後、不意に俺の口から出た言葉。

薄暗い室内の中、吐息まで感じられるほどの距離。
微かに煙草の香りのするシーツに包まれて、ただ・・・互いの温もりを感じながら。


まだ身体の芯に残る熱に・・・頭まで浮かされてしまったのだろうか。
そんな疑問が脳内を掠めるが、零れ落ちた言葉は、既に中嶋さんの耳に届いていて。



「なんだ、いきなり」



いつもより柔らかな視線に包まれている・・・そう感じるのは、薄いガラス越しではなく
直に彼の視線を感じているからだろうか。

その大きな・・・形よい手が、俺の前髪を優しく梳き上げる。

繰り返される、心地よい愛撫。
身も心も、全てを彼に委ねてしまっている自分を認識しながらも、抗う気など起きる筈もなくて。



そっと額に落とされた、普段の彼からは想像もつかないような優しい口づけ。



その優しさが、嬉しくて・・・でも、苦しくて。
俺は、自分の醜い全てを曝け出してしまいそうな衝動に駆られる。




「そもそも、その質問が・・・愚問だな」




自分の中の感情を飲み下そうと、まるで胎児のように身体を丸めた俺の耳元を、中嶋さんの低く
囁くような声が擽る。



「中嶋さん・・・?」

「騙すヤツが騙していたらどうするか・・・?と聞くこと自体、どうかと思うが・・・」




それに・・・と続けられた、中嶋さんの言葉に、俺は耳を傾ける。




「もしかしたら俺も・・・お前を騙しているかもしれないぞ・・・?」








愉快げな笑みを模った、その唇から放たれた言葉。
俺の反応を愉しんでいるといったその表情は、いつもなら馬鹿にされてるみたいで、
とっても癪に障るんだけど。







「その言葉も・・・充分、本末転倒だと思いますよ」

「そうか?」

「騙してる本人が騙しているかも・・・?は愚問なんでしょう?」

「例えば、の話だ」

「だったら俺も例え話ですよ」






不毛という言葉がぴったりな言い合いの後、お互い同時に笑いが込み上げてきて。
再び落とされる口づけを甘受しながらも、それでも、やっぱり俺の心は不安でいっぱいになる。






この人を失ったら・・・俺はどうなってしまうのだろう。
中嶋さんを失った世界でも、俺は今のままでいられるのだろうか。


笑ったり。怒ったり。
泣いたり。ドキドキしたり。


『鈴菱和希』だけでは、決して手に入れられなかったもの。
一度知ってしまえば・・・もう手放せるはずなどなくて。








・・・・・例え話でも、嫌だ・・・・・。








俺の様子を伺うように、離れかけた中嶋さんの唇に、俺は縋るように自ら唇を重ねる。







この温もりを失いたくないのも。
貴方にだけは、嘘をつきたくないのも。




みんな・・・みんな、俺の本当に想いなのに。









それでも、俺は嘘をつくんだ。








だって、この温もりを失いたくないから。
貴方のいない世界など・・・もう考えられないから。
そのために必要な、嘘ならば。
俺は迷わず・・・嘘を重ねるだろう。









貴方にだけは、『嘘』なんてつきたくない。














―――――そんな自分の想いに『嘘』をついてでも。























・・・自分で書いてて、途中で意味がわからなくなってきました。(苦笑)
嘘はつきたくないけど、一緒にいたいから、そのためならば嘘を重ねる。
一番本末転倒なのは、そんな考え方でしょうけど。






ブラウザを閉じてお戻りください。