『好き』 そんな簡単なヒトコトでさえ・・・俺は貴方に伝える術を知らない。 01.好 き 「中嶋さん、預かっていた書類・・・持ってきました」 軽くノックをして扉を開けると、放課後の生徒会室には・・・やっぱり中嶋さん一人で。 「あぁ・・・悪かったな、役員でもないお前に押し付ける格好になってしまって」 何処かの誰かがきちんと仕事をこなしてくれれば、こんな事にはならないのだがな・・・と、 独り言のように呟きながら、中嶋さんは俺の手から書類を受け取る。 その繊細で、綺麗な長い指に・・・俺は一瞬、目を奪われた。 「・・・・・遠藤?」 「あ、いえ・・・その、俺で手伝えることがあれば、いつでも言ってください」 訝しげな中嶋さんの視線から逃げるように、中嶋さんから視線を逸らして、やんわりと笑みを造る。 「・・・そうか、悪いな・・・お前は、思ったより処理が早くて、正確だから助かる・・・いっそ諦めて 役員にでもなったらどうだ?」 「・・・あはは、か、考えておきます」 役員になったところで、俺には何のメリットもない。 寧ろ、今以上にこき使われるだけなのに、役員になってほしい、ではなく、役員になれという言い回しが とっても中嶋さんらしくて。 メリットがないわけじゃない・・・か。 役員になれば、ずっと中嶋さんと一緒にいられる。 どうせ王様は不在な事の方が多いから・・・ほとんど二人きりで、ずっと。 俺が、ただの一年生で・・・ただの『遠藤和希』という存在だったら・・・そうしたかもしれない。 喩え、遠藤和希であっても、この想いを伝えることは・・・多分、出来ないだろうけど。 それでも・・・少しでも長く、大好きな人の傍にいたいという、そんなささやかな願いくらいは、 赦されたかもしれない。 でも、そんな想いですら・・・今の俺には赦されるはずなどなくて。 「・・・やはりお前には、役員は向いていないようだな」 「え?」 いつの間にか、中嶋さんがすぐ前に立って、俺を見下ろしていた。 でも・・・それよりも驚いたのは、先ほどの中嶋さんの言葉。 まるで俺の心を見透かしているかのようなその言葉と、射抜くような鋭い視線。 もしかして、中嶋さんは本当に俺の気持ちを知っていて・・・拒絶されたんじゃ。 言いようのない恥ずかしさや、情けなさ・・・そして、何よりも悲しくて。 俯きかけた俺の頬に・・・中嶋さんの手が、そっと包むように添えられる。 「・・・・な、かじま・・・・さん・・・?」 視線の先の中嶋さんの瞳が・・・いつもより柔らかく見えるのは、俺の気のせいだろうか。 添えられた指先の辺りが、急速に熱を帯びていくのを感じながらも・・・俺はただ、中嶋さんを 見つめ返すことしか出来なくて。 「手伝ってくれるのはありがたいが、無理をしろとは言っていない」 「・・・・え?」 「自分で気づいていないのか?他人の世話を焼く前に、自分の事をもっと知るべきだな」 「あの・・・」 「自己管理もできないヤツには、役員を任せれらないからな」 言葉とは裏腹に、その視線は・・・やっぱり優しげで。 多分、中嶋さんなりに俺のことを心配してくれている・・・そんな気持ちが、添えられた手からも じんわりと伝わってくる。 確かに、昨日は仕事をしてから、預かっていた書類の処理をしたから・・・寝不足ではあったけれど。 いつも一緒にいる啓太でさえ、何も言わなかったくらいなのに。 「今日はもう帰って休め・・・わかったな?」 少しだけ厳しい口調で・・・まるで、俺を諭すような、中嶋さんの視線に気圧されて。 「・・・・・・はい」 込み上げてくる言葉と想いを・・・必死に噛み下しながら、俺は小さく応えた。 この人に触れる度。 この人を感じる度。 湧き上がる想いを・・・抑え切れなくなりそうになる。 感情を理性で押し留めることには、慣れていたはずなのに。 中嶋さんの一挙一動が、その視線が。 俺の中の何かを・・・少しずつ、少しずつ・・・壊していく。 このままでは・・・いけない。 分かっているのに・・・・中嶋さんから、離れることも出来なくて。 ―――――この想いを伝えたら・・・いっそ、楽になれるのだろうか・・・。 感情と理性の狭間で、そんな想いを感じながら・・・・それでも俺は、中嶋さんの添えられただけの 指先から逃れることが出来ずに、ただ、身を委ねていた。 あれれ?なんでだろう・・・なんかシリアスになってしまいました。(^^; ちなみに帝王様が和希の体調不良を見破ったのは、やっぱり愛の力ということで。(笑) ブラウザを閉じてお戻りください。 |