「だから、部室にいたって言ってるじゃないですかっ?」 「・・・・・昨日は手芸部の活動はなかったと聞いているが?」 「俺一人で部室にいたんですよ。」 「部活もないのにか?」 「えぇ。編みかけのセーターを編んでました」 「お前は部室でないと編み物が出来ないのか?」 「そ、そんなコトないですけど・・・別に俺が何処で編み物したって、俺の勝手でしょう?」 さっきから、俺の目の前で延々と繰り広げられる、激論バトル。 ・・・・・誰か助けてください。 帝王サマとお姫サマ お昼休みの教室。 和希と一緒に、今日の学食のランチ何だろうな・・・みたいな話をしていたら、入口の方から 突如、ざわめきが起きた。 何事と思って二人で振り返ると・・・ここにいるはずのない人物が、俺たちの方へと真っ直ぐに 向かってきて。 「・・・な、中嶋さん?」 先に声を上げたのは和希のほうだった。 そう、ざわめきの原因は中嶋さん。 そりゃ、ベルリバティスクール生徒会・影の帝王だとかまことしやかに囁かれてる中嶋さんが、 いきなり一年生の教室に現れたりなんかしたら・・・フツー驚くよな。 中嶋さんと和希の関係を知っている俺でも、驚いたんだから。 だって、中嶋さんが和希に会いに一年の教室まで来るなんて、初めてのことだし。 「どうしたんですか?こんなところまで・・・」 驚きの中にも、どこか嬉しそうな表情で、和希が中嶋さんの方へと駆け寄る。 だけど。 ・・・・・心なしか、中嶋さんの表情が、険しいような気がするのは、俺の気のせい・・・であってほしい。 「遠藤」 「はい?」 「お前、昨日の夕方・・・どこにいた?」 「え?・・・昨日の夕方、ですか?」 「そうだ」 「昨日は・・・そうだ!俺、部室にいましたよ。手芸部の部室」 「・・・・・・・・ほ〜ぅ?」 ・・・・・とまぁ、こんなカンジで先程の口論が始まったわけで。 最初のうちは何事か?と、事の次第を恐る恐る見守っていたクラスメート達も、その雲行きの怪しさを 敏感に感じ取ったのか、もう俺たちの周りに人影は皆無だ。 とても昼休みの教室とは思えないほど、閑散としているのを知ってか知らずか、二人の口論は、さらに エスカレートしていく。 「だいたい、俺が何を言ったところで、貴方は信じないんでしょう?」 「お前が本当のことを言えば、俺だって信じるんだがな」 「だから!!部室で編み物をしてたんですってばっ!!」 「・・・本当に部室でか?」 「そうですっ!」 「・・・本当に編み物をしていたのか?」 「・・・そ、そうですよっ!」 ・・・・・あれ?今・・・和希、一瞬どもった? 念を押すように繰り返された中嶋さんの言葉に、ほんの一瞬だけど、和希が口篭る。 そんな様子を中嶋さんが見逃してくれるはずなどなく、唇の端を持ち上げて、にやりと笑った。 「・・・・・遠藤」 「な、なんですか?」 「・・・素直じゃないな」 「なっ・・・!」 な、中嶋さ〜ん、いくら人影は皆無と言っても、真昼間の教室でそれはどうかと思うんですけど・・・。 中嶋さんの形のよい手は、しっかりと和希の腰に添えられて。 いや、添えられてるだけならまだしも、互いが密着するくらい、グッと引き寄せられていて。 しかも、唇が触れ合うくらいの距離で、和希の顔を覗き込んでるし。 今誰かが入ってきたら、絶対キスしてるようにしか見えないと思う・・・。 そんな俺の心配どころか、きっと、ここが教室であることすら・・・忘れてるんだろうけど。 中嶋さんは、そうでもないかもしれないけど、まぁ・・・あの人は気にしない人だし。 でも、和希はきっと・・・ううん、絶対それどころじゃないんだろうな。 中嶋さんは知らないけど、和希はこの学園の理事長で。 さらにベル研究所の所長で、鈴菱グループの跡取りでもあって。 そんな数々の肩書きを背負って、様々な相手と対等・・・もしくはそれ以上に、怯むことなく渡り合って きた和希が、いくら中嶋さんとは言え、年下の生徒に振り回されている。 それだけ、和希が中嶋さんの事を・・・好きって事なんだよな、きっと。 あんな風に慌てたり、どもったり。 きっと、中嶋さんの前でしか、あんな和希は見られないと思う。 大好きな・・・大切な人の一挙一動に振り回される。 そんな当り前の、ごく普通の反応を示す目の前の親友の姿を、俺は状況も忘れて、つい生温い目で 見守ってしまう。 「・・・・・お前、部室でまた寝てただろう・・・?」 「・・・・・」 「どうした?急におとなしくなったな」 「・・・・・」 「言い返せないというコトは、図星だな」 「・・・・・」 「部室で居眠りするな・・・他人に無防備な姿を晒すなと、言わなかったか?」 「・・・・・」 「今度はダンマリか、そういう子にはお仕置きが必要だな・・・」 ・・・・・はいっ?! 中嶋さん、今何て言いました?! うっかり生温い目で見守っていたせいで、聞き流しかけた言葉の意味を理解した俺の目の前で、 中嶋さんは、軽々と和希を抱え上げた。 ・・・・・それは所謂、世間一般で言うところの『お姫様だっこ』 「な、中嶋さんっ!?」 たまらず和希が抗議の声を上げる・・・が、本人は至って涼しい顔だ。 「伊藤、遠藤を借りるぞ。午後の授業には戻らないから、遠藤の鞄もお前が持って帰れよ」 「・・・・は、はぁ・・・」 「ちょ、中嶋さん!!降ろしてくださいってばっ!!」 「煩い」 至極当然・・と言った表情で、俺を『和希の鞄持ち係』に任命すると、ベルリバティスクール・影の帝王は その腕の中の恋人の非難の声をものともせず、悠然と教室を去っていった。 「・・・・・結局、何だったんだよ・・・」 一人残された俺の呟きと共に、昼休み終了を告げるチャイムが、誰もいない教室に高らかに響き渡った。 和希受け15のお題の13.手編みとビミョーに繋がってたりしますが よーするにただのバカップルのイチャイチャ話。(苦笑) サブタイトルは「啓太の受難」 っていうか、こっちのほうがしっくりくるかも。(^^; ブラウザを閉じてお戻りください。 |